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EU炭素国境調整メカニズム(CBAM)排出量算定実務概要

  • 3月19日
  • 読了時間: 5分

1. 目的と背景

EU炭素国境調整メカニズム(CBAM)に対応するために排出量計算を必要とする企業を対象に、日本貿易振興機構(ジェトロ)が作成した実務マニュアルを参照し、対象セクターの中でも日系企業に関わりが深い「鉄鋼製品」を主な例として、排出量算定の基本的な考え方と具体的なステップを提示します 。

CBAMは、EU域外から輸入される対象製品に対し、EU域内産製品が負う炭素価格(EU ETS)に対応した価格を課す制度です 。これにより、規制の緩い国への生産移転(カーボンリーケージ)を防ぎ、グローバルな排出削減とEU企業の競争力維持を図ることを目的としています 。

EU炭素国境調整メカニズム(CBAM)排出量算定

2. CBAMの基本概念と日系企業への影響

CBAMの仕組み

CBAM導入後は、域外からの輸入品に対しても、EU域外で支払った炭素価格を差し引いた上で「CBAM証書」の購入・納付が義務付けられます 。これにより、域内産製品と輸入品の炭素コストが均衡化される仕組みです 。


企業への直接・間接的影響

  • 輸入事業者(認可申告者)の義務: CBAMにおける報告と証書の購入義務は、EU域内の輸入事業者が負います 。

  • 日本を含む輸出企業の役割: EUに輸出を行う企業は、輸入事業者から「体化排出量(embedded emissions)」に関するデータの提供を強く求められます 。排出量の多い製品は敬遠される傾向が強まるため、実質的な排出削減圧力がかかります 。

  • サプライヤーへの影響: 輸出企業の取引先や外注先も、原材料や委託加工に関する排出量データの提供を求められる可能性があります 。


3. 主要な用語と算定の範囲

排出量を正確に算定するためには、以下の用語の定義を正確に理解する必要があります。

  • 直接排出量: 製品の生産工程から生じる排出。工程で消費される加熱・冷却の生産に伴う排出も含みます 。

  • 間接排出量: 生産工程で消費される電力の生産に伴う排出 。

  • 体化排出量: 製品生産中に発生する直接排出と、消費電力に伴う間接排出の合計 。

  • 前駆体 (Precursors): 生産工程に投入される材料のうち、それ自体がCBAM対象製品であるもの 。

  • システム境界: 排出量計算に含まれる工程の範囲。CBAMでは「ゆりかごから門まで(Cradle to Gate)」、つまり原材料調達から製品出荷までが対象となり、使用・廃棄段階は含まれません 。


4. 排出量算定の8つのステップ

実務上の手順を以下の8つのステップに整理しています 。

ステップ1〜4:システム境界の特定

  1. 対象製品の特定: 輸出製品がCBAM対象(セメント、肥料、鉄鋼、アルミニウム、水素、電力)かどうかを「CNコード(EUの関税番号)」で特定します 。

  2. 統合製品カテゴリの特定: CNコードに基づき、実施規則で定められた「統合製品カテゴリ」を特定します 。

  3. 施設と生産プロセスの特定: 製品が製造される物理的な設備(施設)と、その中で行われる化学的・物理的工程(生産プロセス)を定義します 。

  4. 前駆体の特定: 生産プロセスに投入される中間素材のうち、CBAM対象となる「前駆体」を特定します 。

ステップ5〜8:排出量の具体的な算定

  1. 施設の排出量の算定: 施設で使用した燃料・電気などのエネルギー量を把握し、排出係数を乗じて排出量を計算します 。

  2. 生産プロセスへの排出量の帰属: 施設の排出量を、製品ごとの生産プロセスに(通常は重量比などで)割り振ります 。

  3. 前駆体の排出量の算定: サプライヤーから情報を収集し、投入した前駆体の体化排出量を算出します 。

  4. 製品の特定体化排出量の算定: 上記を合計し、製品1トンあたりの排出量(tCO2e/t)を導き出します 。


5. 算定の実務的な手法と計算式

基本的な計算式

温室効果ガスの排出量は、原則として以下の式で算出します 。

排出量 = 活動量(燃料・電力の使用量など) × 排出係数(CO2換算係数)


製品1トンあたりの特定体化排出量の算定式

製品の排出量は、自社工程の排出量に前駆体の排出量を加え、生産量で除して求めます 。


特定体化排出量 = {自社工程の(直接+間接)排出量 + (前駆体の質量 × 前駆体の特定体化排出量)} ÷ 製品の生産量


排出係数の選択肢

排出係数には優先順位があり、原則として「タイプII」(国が公表する標準係数や、公的機関・研究機関が提供する詳細な値)を使用します 。日本の場合は、環境省が公表する「算定・報告・公表制度(SHK制度)」の係数が使用可能と解釈されています 。


6. デフォルト値の活用とマークアップルール

自社での実測が困難な場合、欧州委員会が設定した「デフォルト値」を使用することができます 。

  • デフォルト値のデメリット: デフォルト値には、実排出量を下回らないよう「保守的な上乗せ(マークアップ)」が加えられています 。

  • 段階的なコスト増: このマークアップ率は、2026年の10%から、2027年に20%、2028年には30%へと段階的に引き上げられる予定です(肥料セクターを除く) 。

  • 実測の重要性: デフォルト値を使用すると、実測値よりも排出量(および課金コスト)が高くなる可能性が高いため、可能な限り実測に基づく報告が推奨されます 。


7. 報告体制とツールの利用

算定したデータは、EU域内の輸入事業者が「CBAM登録簿」を通じて報告します 。

  • 移行期間の運用: これまではExcelベースの「コミュニケーションテンプレート」が使用されてきました 。

  • 本格運用のポータル: EU域外の生産者が直接データを入力できる専用ポータル(O3CI)の運用も開始されており、複数の輸入事業者に情報を共有することが可能です 。


8. まとめと今後の対応

2026年2月時点の情報に基づいています 。CBAMは今後、対象セクターの拡大や、デフォルト値の再評価など、制度の変更が予想されます 。日系企業としては、以下の対応が急務となります。

  1. サプライチェーンの可視化: どの原材料が前駆体に該当するかをCNコードレベルで把握すること。

  2. 算定体制の構築: 施設単位ではなく、製品・工程単位でのエネルギー消費データを計測・記録できる体制を整えること。

  3. サプライヤーとの連携: 前駆体メーカーから正確な排出量データを取得するための契約や協力関係を構築すること。

  4. 最新情報の追跡: 欧州委員会やジェトロが提供する最新の実施規則やガイダンスを継続的に確認すること 。



参考文献:日本貿易振興機構(ジェトロ)「EU炭素国境調整メカニズム(CBAM)に対応する排出量の算定実務マニュアル」


 
 
 

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